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No.177下請法から取適法へ

2025.10.31

下請法から取適法へ

2026年1月1日から、長年使われてきた「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」は「中小受託取引適正化法(取適法)」へと大きく衣替えします。
名前が変わるだけではなく、対象取引の拡大や義務の強化、禁止行為の追加など、実務に直結する改正が盛り込まれています。

1. 名称と用語の変更
これまでの「親事業者」「下請事業者」という呼称は「委託事業者」「中小受託事業者」に改められます。
リーフレットにも「従来の上下関係を前提とした表現から、より中立的な用語へ改められます」とある通り、法律の姿勢自体が“対等な取引”を強調する方向へとシフトしています。

2. 適用範囲の拡大
従来の下請法は「資本金規模」を基準に適用範囲を判断していました。しかし、これでは、実態として中小企業なのに保護から漏れるケースがありました。そこで改正後は「従業員数基準」が導入され、より幅広い中小事業者が対象になります。
さらに取引の範囲も拡大。製造委託や情報処理業務に加え、「特定運送委託」も新たに対象となります。リーフレットには「物品の引渡しのための運送委託も規制対象」と明記されており、サプライチェーン全体に法律が及ぶことがわかります。

3. 発注者の義務強化
委託事業者(発注者)には次の義務が課されます。
・契約内容(給付内容・代金・支払期日・方法)を書面やメール等で明示する義務
・取引記録を2年間保存する義務
・支払期日を「可能な限り短く、60日以内」とすること
・支払遅延時には年率14.6%の遅延利息を支払う義務
つまり「口頭での依頼」「支払いの先延ばし」は今後通用しなくなります。

4. 禁止行為の追加
従来の禁止行為(受領拒否・支払遅延・返品・買いたたき等)に加え、以下も新たに禁止されます。
◆一方的な代金据置き
リーフレットでは「協議に応じない一方的な代金決定を禁止」とされており、価格交渉を無視して発注側が独断で決める行為は違法になります。
◆手形払いの禁止
従来よく用いられた手形決済は、実質的に支払いの先延ばしであり、中小企業の資金繰りを圧迫してきました。今後は原則として認められません。
◆報復措置の禁止
通報や苦情を理由に、発注者が不利益を与えることも違法になります。

5. 行政の関与強化
改正後は、公正取引委員会や中小企業庁に加え、業界を所管する省庁にも「指導・助言権限」が与えられます。
通報先も拡大されるため、中小企業が安心して声を上げられる体制が整えられます。

6. 改正の背景
原材料やエネルギー、人件費の高騰が続く中、中小企業は十分な価格転嫁ができず苦境に陥っていました。従来の下請法では「資本金基準」により保護の網が不十分であり、また「価格交渉に応じない発注者」を取り締まる仕組みがありませんでした。
今回の改正は、こうした現実を踏まえ「中小企業が正当な対価を受けられる制度」への転換を図るものです。

7. 実務への影響と対応ポイント
◆委託事業者(発注側)
・発注書・契約書を必ず書面や電子形式で発行
・支払条件の短期化・振込への切替
・社内規程やマニュアルを整備し、営業・購買担当へ研修
・取引記録保存や価格交渉対応をシステムに組み込む
◆中小受託事業者(受注側)
・発注条件を確認し、契約書やメールを必ず保存
・不当な価格据置きや減額には交渉で対応
・違法行為を把握し、通報ルートを確認
・契約条件が不利であれば改正法を根拠に改善を求める

取適法は「中小企業を守る」だけでなく「発注・受注が対等に取引できる環境を整える」ための法律です。発注者には透明な契約と迅速な支払いが求められ、受注者には交渉の余地が広がります。
施行は2026年1月。企業にとっては契約書や業務フローの見直しが急務です。
中小企業に寄り添う実務家にとっても、この改正を正しく理解し、顧客へ説明できることが重要になるでしょう。

詳細は公正取引委員会が公開しているリーフレットをご覧ください。