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No.171社会保険料の年収の壁

2025.07.28

社会保険料の年収の壁

令和7年6月13日に年金制度改革法が成立し、社会保険料に関する加入要件等が見直された。これにより、社会保険料の年収の壁のうち「106万円の壁」が撤廃されることとなった。 所得税に関する壁は103万円と150万円の2種類があるが、社会保険料に関する壁にも2種類あり、「106万円の壁」と「130万円の壁」がある。
いずれも社会保険料の支払が発生するラインを示すもので、「106万円の壁」は、厚生年金・健康保険に関するものであるのに対し、「130万円の壁」は、被扶養配偶者の国民年金・国民健康保険に関するである。

年金制度改革法が成立したことにより、厚生年金・健康保険に係る「106万円の壁」については、公布日である令和7年6月20日から3年以内に政令で定める日から見直されることとなる。一方、国民年金・国民健康保険に係る「130万円の壁」については、年金制度改革法で直接的な見直しは行われていない。

現在、厚生年金・健康保険の加入対象となる「106万円の壁」の一定の要件は5つあり、以下の要件を全て満たす場合に、加入対象となり、自身で負担する保険料が発生する。

① 賃金要件・・・所定内賃金が月8万8,000円以上
(年収換算した場合、“年収106万円以上”となるため、賃金要件が「106万円の壁」と言われている)
② 企業規模要件・・・従業員数が51人以上の事業所に勤務
③ 労働時間要件・・・所定労働時間が週20時間以上
④ 勤務期間要件・・・継続して2か月を超えて使用される見込み
⑤ 非学生要件・・・学生でないこと
(休学中や通信制・定時制に通学中の場合等は除外されず、加入対象)
※短時間労働者でない場合、「1週間の所定労働時間及び1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上」であれば、厚生年金・健康保険の加入対象となる。

年金制度改革法では、厚生年金・健康保険の加入対象となる①の賃金要件を、令和7年6月20日(公布日)から3年以内に政令で定める日に撤廃する。つまり、改正後は厚生年金・健康保険に収入基準は設けられなくなり、短時間労働者の賃金の大小にかかわらず、他の要件を満たせば加入対象となる。

また、②の企業規模要件についても、撤廃される。当要件は賃金要件とは異なり、段階的な撤廃となる。現行の「51人以上」という要件を、令和9年10月1日に「36人以上」、令和11年10月1日に「21人以上」、令和14年10月1日に「11人以上」と段階的に減らし、令和17年10月1日に完全撤廃される。

したがって、令和17年10月1日には、5要件のうち①賃金要件、②企業規模要件の2つが完全撤廃されることとなり、③労働時間要件、④勤務期間要件、⑤非学生要件が存続することになる。

今回の改革法の成立により、厚生年金・健康保険の加入要件のハードルが下がり、短時間労働者も加入しやすくなる。働き方の選択肢が広がるとともに、将来の年金の増額が期待できる。

一方で、加入対象者となった者は給与の手取額が減少することになる。中小企業では企業規模要件により「106万円の壁」の要件を満たさないため、加入対象者とならなかったことが多く「130万円の壁」まで働くことができた。同法の成立により労働時間要件を満たさないよう勤務時間を調整されることが想定され、パートタイマーを多く雇用している企業にとっては人材確保がより一層厳しくなるものと思われる。

所得税も含めた年収の壁の改正がメディアで取り上げられた際、多く働いた方が給与の手取額が少なくなり損をする「働き損」となるラインが報道された。物価高騰により家計が厳しいなか、パートタイマーにでて少しでも家計の足しにしようとする人も多い。働きたいと思っている人が「働き損」になるなら勤務時間を調整しよう、なんて思わないような制度改革になることを期待したい。

参考:税務通信3858号「どう変わった? 年収の壁Q&A【社会保険料編】」