No.195有価証券報告書の非財務情報の開示について
2026.08.31

最近、有価証券報告書を定時株主総会前に開示する企業が増えています。その背景には、株主が議決権を行使する前に、財務情報だけでなく、ガバナンスや人的資本、サステナビリティなどを含めた企業の全体像を把握できるようにしようとする意図があるようです。有価証券報告書のうち、財務情報等の法的な責任を伴う部分については、企業が発信する情報の中でも信頼性が高く、株主が会社を評価するための重要な判断資料となっているといえます。
一方で、有価証券報告書には、財務情報以外の情報、非財務情報の開示が数多く求められるようになっています。非財務情報は財務情報とは異なり、数値化や客観的な評価が難しく、またそもそもそのような評価を行うべきではないとも言えます。例えば、人的資本や環境への対応等の多様性への取組は、企業のこれまでの歴史や事業内容、組織文化によってあるべき姿が大きく異なると考えられます。それにもかかわらず、女性管理職比率や育児休業取得率など、比較しやすい指標だけが注目されると、企業のこれまでの方針や本来の目的よりも「数値を良く見せること」が目的になりかねません。
その結果、従業員の多様性を尊重するための開示が、結果として企業本来の多様性を失わせる可能性があります。本来、多様性とは各企業が自社の経営戦略や事業環境に応じて最適な形を追求することであり、すべての企業が同じ指標を同じように目指すことではありません。だからこそ重要なのは、単なる数値の羅列ではなく、企業独自のストーリーを示すことと考えております。自社はどのような価値を重視し、そのためにどのような人材戦略やガバナンスを採用し、将来どのような価値創造につなげようとしているのか、その考え方と具体的な取組、そして成果を一貫して説明することで、投資家は数値だけでは見えない企業の本質を理解できるものと思います。
一方で、現行の開示制度そのものにも改善の余地はあり、非財務情報は、財務情報ほど客観性が高くないからこそ、評価基準や開示方法をより明確にし、比較可能性や検証可能性を高めていくことが求められます。ただし、その標準化は企業の独自性を奪わない形で、共通の物差しを持ちながらも、それぞれの企業が自らの強みや特色を十分に語れる余地を残すような制度が必要と考えられます。
このように開示制度としての透明性を高めることと、企業の多様性を尊重することは、相反するものではなく、企業の説明責任を果たしたうえで投資家がその企業を理解し、投資判断できる市場を作るという目的は同じかと思います。有価証券報告書の非財務情報開示は、その目的を達成するための手段となることが望まれます。

